東京地方裁判所 昭和36年(ワ)7239号 判決
判 決
第一、当事者
一、原告
東京都千代田区丸の内二丁目二番地の一丸ビル三〇五区
東亜煙草株式会社
右代表者清算人
久本尹夫
右訴訟代理人弁護士
富田喜作
二、被告
同都中央区八重洲三丁目七番地東京建物ビル七階
国際商事株式会社
右代表者代表取締役
村上寅吉
右訴訟代理人弁護士
古川豊吉
同
佐藤寛蔵
同
金子光義
第二、主文
一、原告の請求を棄却する。
二、原告は訴訟費用を支払え。
第三、事実
一、請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、別紙目録記載の株式を、原告名義に書換えの上、訴外東亜産業株式会社から被告に差入れてある金六六万円の借用証と共に引渡せ。
2 被告は訴訟費用を支払え。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
三、請求の原因
1 訴外東亜産業株式会社(以下訴外会社という)は、被告より、昭和三三年三月一日、金六六万円を期限の定めなく且つ無利息の約定で借受けた。
2 原告は、被告に対して、訴外会社の右債務を担保するため、右同日、原告所有の別紙目録記載の株式(但し、当時は株数は一一〇、〇〇〇株であつたが、同年一一月減資により一一、〇〇〇株となつた。以下本件株式という)を、右借入額が弁済されたときは返還を受ける旨の特約の下に、所謂譲渡担保として譲渡し、名義を被告に書換えて交付した。
3 訴外会社は、被告に対し、右債務に関して金六六万円の借用証を差入れた。
4(一) 原告は物上保証人として右債務を弁済するについて正当の利益を有するので、被告に対し、右債務を弁済しようとしたが、被告はその受領を拒んだ。
(二) そこで、原告は、被告のために、昭和三六年九月四日、金六六万円を東京法務局に供託した。
5(一) 本件株式中別紙目録記載(三)及び(四)の株式の名義は、その後被告より前者は高橋正三、後者は卜部信雄に書換えられている。
(二) しかし、これらの株式についても、被告は依然として占有を有し且つ他に処分する権限を有している。
6(一) 原告は、会社経理応急措置法及び企業再建整備法にいう特別経理会社であり、且つ仮勘定を有している。
(二) かりに、第2項記載の原被告間の契約が同項主張のような本件株式の譲渡担保としての譲渡でないとすれば、それは代金を六六万円とする真実の売買である。しかしそうとすれば、右株式の価格は、一株六円の割合となり企業再建整備法第二五条の二第三項に基づく原告と仮勘定監理人全員との協議による処分見込価格である一株五〇円の割合に満たないことになるから、同条第四項により、原告は、右処分行為をなすに当り、あらかじめ仮勘定監理人全員の同意を得なければならない。
(三) しかるに、右の同意は得られていなかつた。そして、同条項の解釈として、仮勘定監理人の同意のない特別経理株式会社のなす資産の処分行為は無効である。従つて、予備的に不当利得返還請求権を理由として本訴の請求をする。
四、請求原因に対する認否
1 第1項を否認する。
2 第2項を否認する。
3 第3項を否認する。
4 第4項(一)を否認し、(二)を認める。
5 第5項(一)を認め、(二)を否認する。
6 第6項(一)、(二)を認め、(三)を否認する。即ち、本件株式の売買について昭和三三年二月下旬頃仮勘定監理人の同意があつた。又、前記条項の解釈として、たである。
とえ右の同意がなくても処分行為は有効
第四、証 拠≪省略≫
第五、理 由
一、請求原因第1、2項を認めることができない。(省略)の各供述を綜合すると、次の事実が認められる。即ち、訴外会社は、専売公社の輸出入取扱業者として米国産葉煙草の輸入代理店業務を営んでいたが、昭和三二年七月頃、運転資金の欠乏を来たした。そこで同社代表取締役である証人長谷川は、親交のある被告代表者村上に対し、同人が代表取締役をしており且つ訴外会社と同業務を営む被告より訴外会社へ融資してくれるよう依頼した。その結果、被告と訴外会社との間に融資についての一般的な合意が成立し、それに基づいて昭和三二年七月二三日の金三〇万円を手始めとして同年中に約金二〇〇万円の金員が前者より後者へ融資された。右債権の一部を担保するため訴外会社と緊密な関係にある原告が物上保証人として本件株式を被告に対し譲渡担保として譲渡した。そして右債権は昭和三四年一月下旬には金一〇万円を残し返済された。
次に、(証拠―省略)を綜合すると、次の事実が認められる。即ち、訴外会社は、被告に対する前記債務を無理に返済したため、直ちに資金難に陥り昭和三三年二月頃再び被告に融資を申込んだ。右の申込を受けた被告は、訴外会社の再建のためには、前年度のような単純な資金援助のみでは不十分であり、外会社の株主となり且つ経営に参加した上で融資すること及び不良資産を切捨てて資本金を一〇分の一にすることが必要であると判断し、その旨を訴外会社及び原告に伝えた。訴外会社及び原告は結局被告の右の方針に賛成した。そこで、右の趣旨に沿つて、まづ、被告は、株式の譲渡を受けることになり、昭和三三年三月一日、既に原告より被告に前記のように譲渡担保として差入れてある本件株式を、原告より金六六万円で改めて買受けることにした。但し、その代金決済については、本来資金を必要とするのは訴外会社なので、右六六万円は被告より訴外会社に直接支払い、これによつて原告が訴外会社に同額の金を貸与したことにした。
ちなみに、同年一一月の臨時株主総会において資本金を一〇分の一に減少し、同年一二月の定時株主総会において被告の推薦による者二名を取締役に、一名を監査役に選任した。又、同年三月一日以後翌三四年にかけて被告より訴外会社に対し、最高時約三〇〇万円、年間延べ約一〇〇〇万円の資金が無担保で融資された。以上の認定に反する原告代表者久本の供述部分は前掲各証拠と対比してこれを信用しない。
二、請求原因第6項について。当裁判所は企業再建整備法第二五条の二第三、四項の解釈として、特別経理株式会社がその資産を処分見込価格に満たない価格で処分する場合、たとえ、仮勘定監理人のこれに対する同意がなくても、右行為は私法上有効であると解する。なんとなれば、一般に、私法上の取引においては、取引の相手方にとつては容易に知り得ない一方の内部的な事情の如何によりその取引を無効とすることは取引の安全を不当に害するから、明文の規定のない限り、認めるべきではないからである。右法条も、右原則の例外をなすものと解することはできない。従つて、原告の本項の主張はそれ自体理由がない。
三、その他の請求原因事実については判断の必要がない。
なお、訴訟費用の負担について民訴法第八九条適用。
昭和三八年五月二四日
東京地方裁判所民事第八部
裁判長判 事 伊 東 秀 郎
判 事 武 藤 春 光
判事補 宍 戸 達 徳
目 録≪省略≫